チていることになった。
三四日立った。七月三十一日になった。朝起きて顔を洗いに出ると、春が雛《ひよこ》の孵《か》えたのを知らせた。石田は急いで顔を洗って台所へ出て見た。白い牝鶏の羽の間から、黄いろい雛の頭が覘《のぞ》いているのである。
商人が勘定を取りに来る日なので、旦那が帰ってから払うと云えと、言い置いて役所へ出た。午《ひる》になって帰ってみると、待っているものもある。石田はノオトブックにペンで書き留めて、片端から払った。
晩になってから、石田は勘定を当ってみた。小倉に来てから、始て纏《まと》まった一月間の費用を調べることが出来るのである。春を呼んで、米はどうなっているかと問うてみると、丁度|米櫃《こめびつ》が虚《から》になって、跡は明日《あした》持って来るのだと云う。そこで石田は春を勝手へ下らせて、跡で米の量を割ってみた。陸軍で極《き》めている一人一日精米六合というのを迥《はるか》に超過している。石田は考えた。自分はどうしても兵卒の食う半分も食わない。お時婆あさんも春も兵卒ほど飯を食いそうにはない。石田は直《すぐ》にお時婆あさんの風炉敷包の事を思い出した。そして徐《しずか》に
前へ
次へ
全43ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング