る。肌に琥珀《こはく》色の沢《つや》があって、筋肉が締まっている。石田は精悍《せいかん》な奴だと思った。
しかし困る事には、いつも茶の竪縞《たてじま》の単物《ひとえもの》を着ているが、膝の処には二所《ふたところ》ばかりつぎが当っている。それで給仕をする。汗臭い。
「着物はそれしか無いのか。」
「ありまっせん。」
平気で微笑を帯びて答える。石田は三枚持っている浴帷子《ゆかた》を一枚|遣《や》った。
一週間程立った。春と一しょに泊らせていた薄井の下女が暇を取って、師団長の内へ住み込んだ。春の給料が自分の給料の倍だというので、羨《うらや》ましがって主人を取り替えたそうである。そこで薄井では、代《かわり》に入れた分の下女を泊りによこさないことになった。石田は口入の上さんを呼んで、小女《こおんな》をもう一人|傭《やと》いたいと云った。上さんが、そんなら内の娘をよこそうと云って帰った。
口入屋の娘が来た。年は十三で久というのである。色の真黒な子で、頗《すこぶ》る不潔で、頗る行儀が悪い。翌朝五時ごろにぷっという妙な音がするので、石田は目を醒《さ》ました。後に聞けば、勝手では朝起きて戸を閉め
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