竅A下女に別品は困る。さようなら。」
石田はそれから帰掛《かえりがけ》に隣へ寄って、薄井の爺《じい》さんに、下女の若いのが来るから、どうぞお前さんの処の下女を夜だけ泊りに来させて下さいと頼んだ。そして内へ帰って黙っていた。
翌日口入の上さんが来て、お時婆あさんに話をした。年寄に骨を折らせるのが気の毒だと、旦那が云うからと云ったそうである。婆あさんは存外素直に聞いて帰ることになった。石田はまだ月の半ばであるのに、一箇月分の給料を遣った。
夕方になって、口入の上さんは出直して、目見《めみ》えの女中を連れて来た。二十五六位の髪の薄い女で、お辞儀をしながら、横目で石田の顔を見る。襦袢《じゅばん》の袖にしている水浅葱《みずあさぎ》のめりんすが、一寸位袖口から覗いている。
石田は翌日島村を口入屋へ遣って、下女を取り替えることを言い付けさせた。今度は十六ばかりの小柄で目のくりくりしたのが来た。気性もはきはきしているらしい。これが石田の気に入った。
二三日置いてみて、石田はこれに極めた。比那古《ひなこ》のもので、春というのだそうだ。男のような肥後詞《ひごことば》を遣《つか》って、動作も活溌で
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