ズンの中の古襟のあったことを思い出したから、すぐに起きて、それを捜し出して、これも窓から外へ投げた。大きな帽子を被った両棲動物|奴《め》がうるさく附き纏って、おれの膝に腰を掛けて、「テクサメエトルを下さいな」なんと云う。そのうち寐入《ねい》った。翌朝と云いたいが、実際もう朝ではなかった。おれは起きて出掛けた。今日は議会を見に行くはずである。もうすぐにパリイへ立つ予定なのだから、なるたけ急いでベルリンの見物をしてしまわなくてはならないのである。ホテルを出ようとすると、金モオルの附いた帽子を被っている門番が、帽を脱いで、おれにうやうやしく小さい包みを渡した。
「なんだい」とおれは問うた。
「昨日侯爵のお落しになった襟でございます。」こいつまでおれの事を侯爵だと云っている。
おれはいい加減に口をもぐつかせて謝した。
「町の掃除人が持って参ったのでございます。その男の妻が拾ったそうでございます。四十ペンニヒ頂戴いたしたいと申しておりました。」
「そんなら出しておいてくれい。あとで一しょに勘定して貰うから。」
襟は丁寧に包んで、紐でしっかり縛ってある。おれはそれを提げて、来合せた電車に乗って
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