にくべらるる木の切れならずや、それに大金を棄《す》てんこと存じも寄らず、主君御自身にてせり合われ候《そうら》わば、臣下として諫《いさ》め止《とど》め申すべき儀《ぎ》なり、たとい主君がしいて本木を手に入れたく思召《おぼしめ》されんとも、それを遂げさせ申す事、阿諛便佞《あゆべんねい》の所為《しょい》なるべしと申|候《そろ》。当時三十一歳の某《それがし》、この詞《ことば》を聞きて立腹致し候えども、なお忍んで申候は、それはいかにも賢人らしき申条《もうしじょう》なり、さりながら某はただ主命と申《もうす》物《もの》が大切なるにて、主君あの城を落せと仰《おお》せられ候わば、鉄壁なりとも乗り取り申すべく、あの首を取れと仰せられ候わば、鬼神なりとも討ち果たし申すべくと同じく、珍らしき品を求め参れと仰せられ候えば、この上なき名物を求めん所存なり、主命たる以上は、人倫の道に悖《もと》り候事は格別、その事柄に立入り候批判がましき儀は無用なりと申候。横田いよいよ嘲笑《あざわら》いて、お手前とてもその通り道に悖《もと》りたる事はせぬと申さるるにあらずや、これが武具などならば、大金に代《か》うとも惜しからじ、香木に
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