籠《おんたてこも》り遊ばされおり候《そろ》ところ、神君|上杉景勝《うえすぎかげかつ》を討たせ給うにより、三斎公も随従遊ばされ、跡《あと》には泰勝院殿幽斎藤孝《たいしょういんでんゆうさいふじたか》公御留守遊ばされ候。景一は京都赤松殿|邸《やしき》にありし時、烏丸光広《からすまるみつひろ》卿と相識《そうしき》に相成りおり候《そろ》。これは光広卿が幽斎公和歌の御弟子にて、嫡子《ちゃくし》光賢《みつかた》卿に松向寺殿の御息女|万姫君《まんひめぎみ》を妻《めあわ》せ居られ候《そろ》故《ゆえ》に候。さて景一光広卿を介《かい》して御当家御父子とも御心安く相成りおり候。田辺攻《たなべぜめ》の時、関東に御出《おんいで》遊ばされ候三斎公は、景一が外戚《がいせき》の従弟たる森三右衛門を使に田辺へ差立てられ候。森は田辺に着《ちゃく》いたし、景一に面会して御旨《おんむね》を伝え、景一はまた赤松家の物頭《ものがしら》井門亀右衛門《いかどかめえもん》と謀《はか》り、田辺城の妙庵丸櫓《みょうあんまるやぐら》へ矢文《やぶみ》を射掛け候。翌朝景一は森を斥候の中に交ぜて陣所を出だし遣《や》り候。森は首尾よく城内に入り、幽斎
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