れ候|伊達権中納言《だてごんちゅうなごん》殿の役人ぜひとも本木の方を取らんとし、某も同じ本木に望を掛け、互にせり合い、次第に値段をつけ上《あ》げ候。
その時相役申候は、たとい主命なりとも、香木《こうぼく》は無用の翫物《がんぶつ》に有之《これあり》、過分の大金を擲《なげう》ち候《そろ》事《こと》は不可然《しかるべからず》、所詮《しょせん》本木を伊達家に譲り、末木を買求めたき由申候。某申候は、某は左様には存じ申さず、主君の申つけられ候は、珍らしき品を買求め参れとの事なるに、このたび渡来候品の中にて、第一の珍物はかの伽羅に有之、その木に本末《もとすえ》あれば、本木の方が、尤物《ゆうぶつ》中の尤物たること勿論《もちろん》なり、それを手に入れてこそ主命を果すに当るべけれ、伊達家の伊達を増長致させ、本木を譲り候ては、細川家の流を涜《けが》す事と相成可と申候。相役|嘲笑《あざわら》いて、それは力瘤《ちからこぶ》の入れどころが相違せり、一国一城を取るか遣《や》るかと申す場合ならば、飽《あ》くまで伊達家に楯《たて》をつくがよろしかるべし、高が四畳半の炉《ろ》にくべらるる木の切《き》れならずや、それに大
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