ありましょう。今|伯楽《はくらく》の一顧を得て、奔※[#「足へん+是」、第4水準2−89−42]《ほんてい》して千里を致すの思があります。願わくは題を課してお試み下さい」と云ったのである。
 温は微笑を禁じ得なかった。この少女が良驥《りょうき》を以て自ら比するのは、いかにもふさわしくないように感じたからである。
 玄機は起《た》って筆墨を温の前に置いた。温は率然「江辺柳」の三字を書して示した。玄機が暫《しばら》く考えて占出《せんしゅつ》した詩はこうである。
[#ここから5字下げ]
賦得江辺柳
[#ここから2字下げ]
翠色連荒岸《すゐしよくくわうがんにつらなり》。 烟姿入遠楼《えんしゑんろうにいる》。
影鋪秋水面《かげはしうすゐのおもてにのべ》。 花落釣人頭《はなはつりびとのかうべにおつ》。
根老蔵魚窟《ねはおいてぎよくつかくれ》。 枝低繋客舟《えだはひくくきやくしうつながる》。
蕭々風雨夜《せうせうたりふううのよ》。 驚夢復添愁《ゆめよりさめてまたうれひをそふ》。
[#ここで字下げ終わり]
 温は一|誦《しょう》して善《よ》しと称した。温はこれまで七たび挙場に入った。そして毎《つね》に
前へ 次へ
全29ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング