采蘋が失踪した後、玄機の態度は一変して、やや文字を識る士人が来て詩を乞《こ》い書を求めると、それを留《とど》めて茶を供し、笑語※[#「日/咎」、第3水準1−85−32]《しょうごひかげ》を移すことがある。一たび※[#「肄」の「聿」に代えて「欠」、第3水準1−86−31]待《かんたい》せられたものは、友を誘《いざな》って再び来る。玄機が客《かく》を好むと云う風聞は、幾《いくばく》もなくして長安人士の間に伝わった。もう酒を載せて尋ねても、逐われる虞《おそれ》はなくなったのである。
これに反して徒《いたずら》に美人の名に誘われて、目に丁字《ていじ》なしと云う輩《やから》が来ると、玄機は毫《ごう》も仮借せずに、これに侮辱を加えて逐い出してしまう。熟客《じゅっかく》と共に来た無学の貴介子弟《きかいしてい》などは、幸《さいわい》にして謾罵《まんば》を免れることが出来ても、坐客があるいは句を聯《つら》ねあるいは曲を度する間にあって、自《みずか》ら視《み》て欠然たる処から、独り窃《ひそか》に席を逃れて帰るのである。
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客と共に謔浪《ぎゃくろ
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