ばし》時代に金を貸して遣った学生に猪飼《いかい》と云うのがいた。身なりに少しも構わないと云う風をして、素足に足駄を穿《は》いて、左の肩を二三寸高くして歩いていた。そいつがどうしても金を返さず、書換もせずに逃げ廻っていたのに、或日|青石横町《あおいしよこちょう》の角で出くわした。「どこへ行くのです」と云うと、「じきそこの柔術の先生の所へ行くのだよ。例のはいずれそのうち」と云って摩《す》り抜けて行った。己はそのまま別れて歩き出す真似をして、そっと跡へ戻って、角に立って見ていた。猪飼は伊予紋に這入った。己はそれを突き留めて置いて、広小路で用を達《た》して、暫《しばら》く立ってから伊予紋へ押し掛けて行った。猪飼|奴《め》さすがに驚いたが、持前の豪傑気取で、芸者を二人呼んで馬鹿騒ぎをしている席へ、己を無理に引き摩《ず》り上げて、「野暮を言わずにきょうは一杯飲んでくれ」と云って、己に酒を飲ませやがった。あの時己は始て芸者と云うものを座敷で見たが、その中に凄《すご》いような意気な女がいた。おしゅんと云ったっけ。そいつが酔っ払って猪飼の前に据わって、何が癪《しゃく》に障っていたのだか、毒づき始めた。そ
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