附いて、なんとでも云って遣りたいような心持で帰ったお常は拍子抜けがした。午食《ひるしょく》の支度もしなくてはならない。もう間もなく入用《いりよう》になる子供の袷《あわせ》の縫い掛けてあるのも縫わなくてはならない。お常は器械的に、いつものように働いているうちに、夫に打っ附かろうと思った鋭鋒《えいほう》は次第に挫《くじ》けて来た。これまでもひどい勢《いきおい》で、石垣に頭を打ち附ける積りで、夫に衝突したことは、度々ある。しかしいつも頭にあらがう筈の石垣が、腕を避ける暖簾《のれん》であるのに驚かされる。そして夫が滑かな舌で、道理らしい事を言うのを聞いていると、いつかその道理に服するのではなくて、只何がなしに萎《な》やされてしまうのである。きょうはなんだか、その第一の襲撃も旨《うま》く出来そうには思われなくなって来る。お常は子供を相手に午食を食べる。喧嘩をする子供の裁判をする。袷を縫う。又夕食の支度をする。子供に行水を遣わせて、自分も使う。蚊遣《かやり》をしながら夕食を食べる。食後に遊びに出た子供が遊び草臥《くたび》れて帰る。女中が勝手から出て来て、極まった所に床を取ったり、蚊帳《かや》を弔《
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