で、お午《ひる》の支度だって、わたくしが帰って手伝って遣らなくては出来ないの」
「檀那にことわって来たのなら、午もこっちで食べて行けば好《い》い」
「いいえ。不用心ですわ。またすぐ出掛けて来てよ。お父っさん。さようなら」
お玉が立ち上がるとたんに、女中が慌てて履物を直しに出た。気が利かぬようでも、女は女に遭遇して観察をせずには置かない。道で行《ゆ》き合っても、女は自己の競争者として外の女を見ると、或る哲学者は云った。汁椀の中へ親指を衝っ込む山出しの女でも、美しいお玉を気にして、立聴《たちぎき》をしていたものと見える。
「じゃあ又来るが好い。檀那に宜しく言ってくれ」爺いさんは据わったままこう云った。
お玉は小さい紙入を黒襦子《くろじゅす》の帯の間から出して、幾らか紙に撚《ひね》って女中に遣って置いて、駒下駄を引っ掛けて、格子戸の外へ出た。
たよりに思う父親に、苦しい胸を訴えて、一しょに不幸を歎く積で這入った門《かど》を、我ながら不思議な程、元気好くお玉は出た。切角安心している父親に、余計な苦労を掛けたくない、それよりは自分を強く、丈夫に見せて遣りたいと、努力して話をしているうちに、
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