顔を出さないことはない。これがよめに往ったので、折合が好《い》いかと問われたのなら、大層好いから安心して下さいと、晴れ晴れと返事が出来るのだろう。それがこうした身の上で見れば、どうも檀那が毎晩お出になるとは、気が咎《とが》めて言いにくい。お玉は暫く考えて、「まあ、好い工合のようですから、お父っさん、お案じなさらなくっても好《よ》ござんすわ」と云った。
「そんなら好《い》いが」と爺いさんは云ったが、娘の答にどこやら物足らぬ所のあるのを感じた。問う人も、答える人も無意識に含糊《がんこ》の態《たい》をなして物を言うようになったのである。これまで何事も打ち明け合って、お互の間に秘密と云うものを持っていたことのない二人が、厭でも秘密のあるらしい、他人行儀の挨拶をしなくてはならなくなったのである。前に悪い壻《むこ》を取って騙された時なんぞは、近所の人に面目《めんぼく》ないとは思っても、親子共胸の底には曲《きょく》彼《かれ》に在りと云う心持があったので、互に話をし合うには、少しも遠慮はしなかった。その時とは違って、親子は一旦決心して纏《まと》めた話が旨く纏まって、不自由のない身の上になっていながら、
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