、探りを入れて見たが、子供らしい、なんでもない事だと云うのであった。しかし十一時過ぎにこの家を出て、無縁坂をぶらぶら降《お》りながら考えて見れば、どうもまだその奥に何物かが潜んでいそうである。末造の物馴れた、鋭い観察は、この何物かをまるで見遁《みのが》してはおらぬのである。少くも或る気まずい感情を起させるような事を、誰《たれ》かがお玉に話したのではあるまいかとまで、末造は推測を逞《たくましゅ》うして見た。それでも誰が何を言ったかは、とうとう分からずにしまった。

     拾壱《じゅういち》

 翌朝お玉が、池の端の父親の家に来た時は、父親は丁度|朝飯《あさはん》を食べてしまった所であった。化粧の手間を取らないお玉が、ちと早過ぎはせぬかと思いながら、急いで来たのだが、早起の老人はもう門口《かどぐち》を綺麗に掃いて、打水をして、それから手足を洗って、新しい畳の上に上がって、いつもの寂しい食事を済ませた所であった。
 二三軒隔てては、近頃待合も出来ていて、夕方になれば騒がしい時があるが、両隣は同じように格子戸の締まった家で、殊に朝のうちは、あたりがひっそりしている。肱掛窓《ひじかけまど》か
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