込む不忍《しのばず》の池の北側を廻って、上野の山をぶらつく。それから松源《まつげん》や雁鍋《がんなべ》のある広小路、狭い賑《にぎ》やかな仲町《なかちょう》を通って、湯島天神の社内に這入《はい》って、陰気な臭橘寺《からたちでら》の角を曲がって帰る。しかし仲町を右へ折れて、無縁坂から帰ることもある。これが一つの道筋である。或る時は大学の中を抜けて赤門に出る。鉄門は早く鎖《とざ》されるので、患者の出入《しゅつにゅう》する長屋門から這入って抜けるのである。後にその頃の長屋門が取り払われたので、今|春木町《はるきちょう》から衝《つ》き当る処《ところ》にある、あの新しい黒い門が出来たのである。赤門を出てから本郷《ほんごう》通りを歩いて、粟餅《あわもち》の曲擣《きょくづき》をしている店の前を通って、神田明神の境内に這入る。そのころまで目新しかった目金橋《めがねばし》へ降りて、柳原《やなぎはら》の片側町《かたかわまち》を少し歩く。それからお成道《なりみち》へ戻って、狭い西側の横町のどれかを穿《うが》って、矢張《やはり》臭橘寺の前に出る。これが一つの道筋である。これより外の道筋はめったに歩かない。
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