ヤって見たが、あの女はいつまでも君の後影を見ていた。おおかたまだこっちの方角を見て立っているだろう。あの左伝の、目迎えて而《しこう》してこれを送ると云う文句だねえ。あれをあべこべに女の方で遣っているのだ」
「その話はもうよしてくれ給え。君にだけは顛末《てんまつ》を打ち明けて話してあるのだから、この上僕をいじめなくても好いじゃないか」
こう云っているうちに、池の縁《ふち》に出たので、二人共ちょいと足を停めた。
「あっちを廻ろうか」と、岡田が池の北の方を指ざした。
「うん」と云って、僕は左へ池に沿うて曲った。そして十歩ばかりも歩いた時、僕は左手に並んでいる二階造の家を見て、「ここが桜痴《おうち》先生と末造君との第宅《ていたく》だ」と独語《ひとりごと》のように云った。
「妙な対照のようだが、桜痴居士も余り廉潔じゃないと云うじゃないか」と、岡田が云った。
僕は別に思慮もなく、弁駁《べんばく》らしい事を言った。「そりゃあ政治家になると、どんなにしていたって、難癖を附けられるさ」恐らくは福地さんと末造との距離を、なるたけ大きく考えたかったのであろう。
福地の邸《やしき》の板塀のはずれから、北
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