クに上条の格子戸を出たのだが、二人は門口から右へ曲った。
無縁坂を降り掛かる時、僕は「おい、いるぜ」と云って、肘《ひじ》で岡田を衝いた。
「何が」と口には云ったが、岡田は僕の詞の意味を解していたので、左側の格子戸のある家を見た。
家の前にはお玉が立っていた。お玉は窶《やつ》れていても美しい女であった。しかし若い健康な美人の常として、粧映《つくりばえ》もした。僕の目には、いつも見た時と、どこがどう変っているか、わからなかったが、とにかくいつもとまるで違った美しさであった。女の顔が照り赫いているようなので、僕は一種の羞明《まぶし》さを感じた。
お玉の目はうっとりとしたように、岡田の顔に注がれていた。岡田は慌てたように帽を取って礼をして、無意識に足の運《はこび》を早めた。
僕は第三者に有勝《ありがち》な無遠慮を以て、度々|背後《うしろ》を振り向いて見たが、お玉の注視は頗《すこぶ》る長く継続せられていた。
岡田は俯向《うつむ》き加減になって、早めた足の運《はこび》を緩めずに坂を降りる。僕も黙って附いて降りる。僕の胸の中《うち》では種々の感情が戦っていた。この感情には自分を岡田の地位に
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