ッは無い。しかしそれは厭《いや》だ。手紙には何も人に言われぬような事を書く積りではないが、とにかく岡田さんに手紙を遣ると云うことを、誰にも知らせたくない。まあ、どうしたものだろう。
 丁度同じ道を往ったり来たりするように、お玉はこれだけの事を順に考え逆に考え、お化粧や台所の指図に一旦まぎれて忘れては又思い出していた。そのうち末造が来た。お玉は酌をしつつも思い出して、「何をそんなに考え込んでいるのだい」と咎《とが》められた。「あら、わたくしなんにも考えてなんぞいはしませんわ」と、意味の無い笑顔をして見せて、私《ひそ》かに胸をどき附かせた。しかしこの頃はだいぶ修行が詰《つ》んで来たので、何物かを隠していると云うことを、鋭い末造の目にも、容易に見抜かれるような事は無かった。末造が帰った跡で見た夢に、お玉はとうとう菓子折を買って来て、急いで梅に持たせて出した。その跡で名刺も添えず手紙も附けずに遣ったのに気が附いて、はっと思うと、夢が醒《さ》めた。
 翌日になった。この日は岡田が散歩に出なかったか、それともこっちで見はずしたか、お玉は恋しい顔を見ることが出来なかった。その次の日は岡田が又いつもの
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