烽っただろう。直ぐに無縁坂へ往こうかとも思ったが、生憎女中が小さい子を連れて、七軒町の通にいたので、わざと切通《きりどおし》の方へ抜けて、どこへ往くと云う気もなしに、天神町から五軒町へと、忙がしそうに歩いて行った。折々「糞《くそ》」「畜生」などと云う、いかがわしい単語を口の内でつぶやいているのである。昌平橋に掛かる時、向うから芸者が来た。どこかお玉に似ていると思って、傍《わき》を摩れ違うのを好く見れば、顔は雀斑《そばかす》だらけであった。矢《や》っ張《ぱり》お玉の方が別品だなと思うと同時に、心に愉快と満足とを覚えて、暫く足を橋の上に駐《と》めて、芸者の後影《うしろかげ》を見送った。多分買物にでも出たのだろう、雀斑芸者は講武所の横町へ姿を隠してしまった。
 その頃まだ珍らしい見物《みもの》になっていた眼鏡橋《めがねばし》の袂《たもと》を、柳原の方へ向いてぶらぶら歩いて行く。川岸の柳の下に大きい傘を張って、その下で十二三の娘にかっぽれを踊らせている男がある。その周囲にはいつものように人が集まって見ている。末造がちょいと足を駐めて踊を見ていると、印半纏を着た男が打《ぶ》っ附かりそうにして、
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