》に住《す》んでゐて呼《よ》ぶのに面倒《めんだう》のない醫者《いしや》に懸《か》かつてゐたのだから、ろくな藥《くすり》は飮《の》ませて貰《もら》ふことが出來《でき》なかつたのである。今《いま》乞食坊主《こじきばうず》に頼《たの》む氣《き》になつたのは、なんとなくえらさうに見《み》える坊主《ばうず》の態度《たいど》に信《しん》を起《おこ》したのと、水《みず》一ぱいでする呪《まじなひ》なら間違《まちが》つた處《ところ》で危險《きけん》な事《こと》もあるまいと思《おも》つたのとのためである。丁度《ちやうど》東京《とうきやう》で高等官《かうとうくわん》連中《れんちゆう》が紅療治《べにれうぢ》や氣合術《きあひじゆつ》に依頼《いらい》するのと同《おな》じ事《こと》である。
閭《りよ》は小女《こをんな》を呼《よ》んで、汲立《くみたて》の水《みづ》を鉢《はち》に入《い》れて來《こ》いと命《めい》じた。水《みづ》が來《き》た。僧《そう》はそれを受《う》け取《と》つて、胸《むね》に捧《さゝ》げて、ぢつと閭《りよ》を見詰《みつ》めた。清淨《しやうじやう》な水《みづ》でも好《よ》ければ、不潔《ふけつ》な水《
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