《だい》の身《み》を惱《なや》ます病《やまひ》は幻《まぼろし》でございます。只《たゞ》清淨《しやうじやう》な水《みづ》が此《この》受糧器《じゆりやうき》に一ぱいあれば宜《よろ》しい。呪《まじなひ》で直《なほ》して進《しん》ぜます。」
「はあ呪《まじなひ》をなさるのか。」かう云《い》つて少《すこ》し考《かんが》へたが「仔細《しさい》あるまい、一つまじなつて下《くだ》さい」と云《い》つた。これは醫道《いだう》の事《こと》などは平生《へいぜい》深《ふか》く考《かんが》へてもをらぬので、どう云《い》ふ治療《ちれう》ならさせる、どう云《い》ふ治療《ちれう》ならさせぬと云《い》ふ定見《ていけん》がないから、只《たゞ》自分《じぶん》の悟性《ごせい》に依頼《いらい》して、其《その》折々《をり/\》に判斷《はんだん》するのであつた。勿論《もちろん》さう云《い》ふ人《ひと》だから、掛《か》かり附《つけ》の醫者《いしや》と云《い》ふのも善《よ》く人選《にんせん》をしたわけではなかつた。素問《そもん》や靈樞《れいすう》でも讀《よ》むやうな醫者《いしや》を搜《さが》して極《き》めてゐたのではなく、近所《きんじよ
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