《つ》れ込《こ》んだ。
 こゝは湯気《ゆげ》が一ぱい籠《こ》もつてゐて、遽《にはか》に這入《はひ》つて見《み》ると、しかと物《もの》を見定《みさだ》めることも出來《でき》ぬ位《くらゐ》である。その灰色《はひいろ》の中《なか》に大《おほ》きい竈《かまど》が三つあつて、どれにも殘《のこ》つた薪《まき》が眞赤《まつか》に燃《も》えてゐる。暫《しばら》く立《た》ち止《と》まつて見《み》てゐるうちに、石《いし》の壁《かべ》に沿《そ》うて造《つく》り附《つ》けてある卓《つくゑ》の上《うへ》で大勢《おほぜい》の僧《そう》が飯《めし》や菜《さい》や汁《しる》を鍋釜《なべかま》から移《うつ》してゐるのが見《み》えて來《き》た。
 この時《とき》道翹《だうげう》が奧《おく》の方《はう》へ向《む》いて、「おい、拾得《じつとく》」と呼《よ》び掛《か》けた。
 閭《りよ》が其《その》視線《しせん》を辿《たど》つて、入口《いりくち》から一|番《ばん》遠《とほ》い竈《かまど》の前《まへ》を見《み》ると、そこに二人《ふたり》の僧《そう》の蹲《うづくま》つて火《ひ》に當《あた》つてゐるのが見《み》えた。
 一人《ひとり
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