か。これは當寺《たうじ》から西《にし》の方《はう》の寒巖《かんがん》と申《まを》す石窟《せきくつ》に住《す》んでをりますものでございます。拾得《じつとく》が食器《しよくき》を滌《あら》ひます時《とき》、殘《のこ》つてゐる飯《めし》や菜《さい》を竹《たけ》の筒《つゝ》に入《い》れて取《と》つて置《お》きますと、寒山《かんざん》はそれを貰《もら》ひに參《まゐ》るのでございます。」
「なる程《ほど》」と云《い》つて、閭《りよ》は附《つ》いて行《ゆ》く。心《こゝろ》の中《うち》では、そんな事《こと》をしてゐる寒山《かんざん》、拾得《じつとく》が文殊《もんじゆ》、普賢《ふげん》なら、虎《とら》に騎《の》つた豐干《ぶかん》はなんだらうなどと、田舍者《いなかもの》が芝居《しばゐ》を見《み》て、どの役《やく》がどの俳優《はいいう》かと思《おも》ひ惑《まど》ふ時《とき》のやうな氣分《きぶん》になつてゐるのである。
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「甚《はなは》だむさくるしい所《ところ》で」と云《い》ひつゝ、道翹《だうげう》は閭《りよ》を厨《くりや》の中《うち》に連
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