い》つても、道教《だうけう》に入《い》つても、佛法《ぶつぱふ》に入《い》つても基督教《クリストけう》に入《い》つても同《おな》じ事《こと》である。かう云《い》ふ人《ひと》が深《ふか》く這入《はひ》り込《こ》むと日々《ひゞ》の務《つとめ》が即《すなは》ち道《みち》そのものになつてしまふ。約《つゞ》めて言《い》へばこれは皆《みな》道《みち》を求《もと》める人《ひと》である。
 この無頓著《むとんちやく》な人《ひと》と、道《みち》を求《もと》める人《ひと》との中間《ちゆうかん》に、道《みち》と云《い》ふものゝ存在《そんざい》を客觀的《かくくわんてき》に認《みと》めてゐて、それに對《たい》して全《まつた》く無頓著《むとんちやく》だと云《い》ふわけでもなく、さればと云《い》つて自《みづか》ら進《すゝ》んで道《みち》を求《もと》めるでもなく、自分《じぶん》をば道《みち》に疎遠《そゑん》な人《ひと》だと諦念《あきら》め、別《べつ》に道《みち》に親密《しんみつ》な人《ひと》がゐるやうに思《おも》つて、それを尊敬《そんけい》する人《ひと》がある。尊敬《そんけい》はどの種類《しゆるゐ》の人《ひと》にもあるが、單《たん》に同《おな》じ對象《たいしやう》を尊敬《そんけい》する場合《ばあひ》を顧慮《こりよ》して云《い》つて見《み》ると、道《みち》を求《もと》める人《ひと》なら遲《おく》れてゐるものが進《すゝ》んでゐるものを尊敬《そんけい》することになり、こゝに言《い》ふ中間人物《ちゆうかんじんぶつ》なら、自分《じぶん》のわからぬもの、會得《ゑとく》することの出來《でき》ぬものを尊敬《そんけい》することになる。そこに盲目《まうもく》の尊敬《そんけい》が生《しやう》ずる。盲目《まうもく》の尊敬《そんけい》では、偶《たま/\》それをさし向《む》ける對象《たいしやう》が正鵠《せいこく》を得《え》てゐても、なんにもならぬのである。

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 閭《りよ》は衣服《いふく》を改《あらた》め輿《よ》に乘《の》つて、台州《たいしう》の官舍《くわんしや》を出《で》た。從者《じゆうしや》が數《すう》十|人《にん》ある。
 時《とき》は冬《ふゆ》の初《はじめ》で、霜《しも》が少《すこ》し降《ふ》つてゐる。椒江《せうこう》の支流《しりう》で、始豐溪《しほうけい》と云《い》ふ川《かは》の左岸《さがん》を迂囘《うくわい》しつつ北《きた》へ進《すゝ》んで行《ゆ》く。初《はじ》め陰《くも》つてゐた空《そら》がやうやう晴《は》れて、蒼白《あをじろ》い日《ひ》が岸《きし》の紅葉《もみぢ》を照《てら》してゐる。路《みち》で出合《であ》ふ老幼《らうえう》は、皆《みな》輿《よ》を避《さ》けて跪《ひざまづ》く。輿《よ》の中《なか》では閭《りよ》がひどく好《い》い心持《こゝろもち》になつてゐる。牧民《ぼくみん》の職《しよく》にゐて賢者《けんしや》を禮《れい》すると云《い》ふのが、手柄《てがら》のやうに思《おも》はれて、閭《りよ》に滿足《まんぞく》を與《あた》へるのである。
 台州《たいしう》から天台縣《てんだいけん》までは六十|里《り》半《はん》程《ほど》である。日本《にほん》の六|里《り》半《はん》程《ほど》である。ゆる/\輿《よ》を舁《か》かせて來《き》たので、縣《けん》から役人《やくにん》の迎《むか》へに出《で》たのに逢《あ》つた時《とき》、もう午《ひる》を過《す》ぎてゐた。知縣《ちけん》の官舍《くわんしや》で休《やす》んで、馳走《ちそう》になりつゝ聞《き》いて見《み》ると、こゝから國清寺《こくせいじ》までは、爪先上《つまさきあが》りの道《みち》が又《また》六十|里《り》ある。往《ゆ》き著《つ》くまでには夜《よ》に入《い》りさうである。そこで閭《りよ》は知縣《ちけん》の官舍《くわんしや》に泊《とま》ることにした。
 翌朝《よくてう》知縣《ちけん》に送《おく》られて出《で》た。けふもきのふに變《かは》らぬ天氣《てんき》である。一|體《たい》天台《てんだい》一|萬《まん》八千|丈《ぢやう》とは、いつ誰《たれ》が測量《そくりやう》したにしても、所詮《しよせん》高過《たかす》ぎるやうだが、兎《と》に角《かく》虎《とら》のゐる山《やま》である。道《みち》はなか/\きのふのやうには捗《はかど》らない。途中《とちゆう》で午飯《ひるめし》を食《く》つて、日《ひ》が西《にし》に傾《かたむ》き掛《か》かつた頃《ころ》、國清寺《こくせいじ》の三|門《もん》に著《つ》いた。智者大師《ちしやだいし》の滅後《めつご》に、隋《ずゐ》の煬帝《やうだい》が立《た》てたと云《い》ふ寺《てら》である。
 寺《てら》でも主簿《しゆぼ》の御參詣《ごさんけい》だと云《い》ふの
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