寒山拾得
森鴎外
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)唐《たう》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)七|世紀《せいき》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「りっしんべん+喬」、第3水準1−84−61]慢《けうまん》を
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)うけもち/\
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唐《たう》の貞觀《ぢやうくわん》の頃《ころ》だと云《い》ふから、西洋《せいやう》は七|世紀《せいき》の初《はじめ》日本《にほん》は年號《ねんがう》と云《い》ふもののやつと出來掛《できか》かつた時《とき》である。閭丘胤《りよきういん》と云《い》ふ官吏《くわんり》がゐたさうである。尤《もつと》もそんな人《ひと》はゐなかつたらしいと云《い》ふ人《ひと》もある。なぜかと云《い》ふと、閭《りよ》は台州《たいしう》の主簿《しゆぼ》になつてゐたと言《い》ひ傳《つた》へられてゐるのに、新舊《しんきう》の唐書《たうしよ》に傳《でん》が見《み》えない。主簿《しゆぼ》と云《い》へば、刺史《しし》とか太守《たいしゆ》とか云《い》ふと同《おな》じ官《くわん》である。支那《しな》全國《ぜんこく》が道《だう》に分《わか》れ、道《だう》が州《しう》又《また》は郡《ぐん》に分《わか》れ、それが縣《けん》に分《わか》れ、縣《けん》の下《した》に郷《がう》があり郷《がう》の下《した》に里《り》がある。州《しう》には刺史《しし》と云《い》ひ、郡《ぐん》には太守《たいしゆ》と云《い》ふ。一|體《たい》日本《にほん》で縣《けん》より小《ちひ》さいものに郡《ぐん》の名《な》を附《つ》けてゐるのは不都合《ふつがふ》だと、吉田東伍《よしだとうご》さんなんぞは不服《ふふく》を唱《とな》へてゐる。閭《りよ》が果《はた》して台州《たいしう》の主簿《しゆぼ》であつたとすると日本《にほん》の府縣知事《ふけんちじ》位《くらゐ》の官吏《くわんり》である。さうして見《み》ると、唐書《たうしよ》の列傳《れつでん》に出《で》てゐる筈《はず》だと云《い》ふのである。しかし閭《りよ》がゐなくては話《はなし》が成《な》り立《た》たぬから、兎《と》も角《かく》もゐたことにし
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