ち道そのものになってしまう。つづめて言えばこれは皆道を求める人である。
この無頓着な人と、道を求める人との中間に、道というものの存在を客観的に認めていて、それに対して全く無頓着だというわけでもなく、さればと言ってみずから進んで道を求めるでもなく、自分をば道に疎遠な人だと諦念《あきら》め、別に道に親密な人がいるように思って、それを尊敬する人がある。尊敬はどの種類の人にもあるが、単に同じ対象を尊敬する場合を顧慮して言ってみると、道を求める人なら遅れているものが進んでいるものを尊敬することになり、ここに言う中間人物なら、自分のわからぬもの、会得することの出来ぬものを尊敬することになる。そこに盲目の尊敬が生ずる。盲目の尊敬では、たまたまそれをさし向ける対象が正鵠《せいこく》を得ていても、なんにもならぬのである。
――――――――――――
閭は衣服を改め輿《よ》に乗って、台州の官舍を出た。従者が数十人ある。
時は冬の初めで、霜が少し降っている。椒江《しょうこう》の支流で、始豊渓《しほうけい》という川の左岸を迂回しつつ北へ進んで行く。初め陰《くも》っていた空がようよう晴れて、蒼白《
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