で不細工にシヨオルの結目を解いて、それから帽の革紐を解いた。シヨオルと帽とを除《の》けたところで顔を見ると、三十歳ばかりの男の若い、元気の好い顔が寒さで赤くなつてゐる。卑しいやうで、しつかりした容貌である。こんな顔の人をこれまで押丁《おうてい》なんぞで見た事がある。総て人に対して威厳を保ち、人を恐れさせてゐるが、その癖自分は不断用心してゐなくてはならないといふ風の男にこんな容貌があり勝ちに思はれる。表情に富んだ、黒い目が、ちよい/\と、物の底まで見抜くやうな見方をする。顔の下の半分が少し前に出てゐる。これは感情の猛烈な人相である。併しこの男はその感情を抑へて縦《ほしいまゝ》にしないやうに修養してゐるらしい。身分が流浪人だといふ事は直ぐ分かる。どこで分かるといふ事は言はれないが、一目で分かる。この男の心が不安で、心の中で争闘が絶えないといふ事だけは、下唇がぶる/\するのと、所々の筋肉が神経性に働くのとで判断する事が出来る。
顔の表情は大体からいへば、そつけないのであるが、どこかそれを調和してゐるものがある。それは一種の憂愁を帯びてゐるところに存する。多分疲れたのと、夜の寒さと戦つたのと
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