つて、いつでも人を殺すのではない。我々と同じやうに生きてゐて、同じやうな感じを持つてゐる。それだから寒い夜に自分を暖かい天幕の中へ泊まらせてくれる人に対して、感謝するといふ念をも持つてゐる。併し己の目に、今来た人間が立派な鞍を置いた馬を連れてゐて、その鞍に色々な荷物が括り付けてあるのが見えたところで、その人間がその馬の正当な持主であるやら、又その荷物の中にあるものが、その人間の正当な所有品であるやら、そんな事は容易に判断しにくいのである。
 馬の革で張つた、重くろしい戸が外から開けられた。中庭から白い霧が舞ひ込んで来る。その時旅人は煖炉の前へ進んだ。背の高い、肩幅の広い、立派な男である。衣服はヤクツク人と同じであるが、人種の違ふ事は一目に分かる。足には雪のやうに白い馬皮《ばひ》製の長靴を穿いてゐる。ヤクツク人の着る寛《ゆる》い外套が肩で襞を拵へて、耳まで隠してゐる。頭と頸とは大きなシヨオルで巻いてある。そのシヨオルの下の端は腰の周囲《まはり》に結んである。シヨオルもその外の衣類も、山の高い、庇のない帽も氷で真つ白になつてゐる。

     二

 客は煖炉の側に寄つて、凍《こゞ》えた指
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