ウい。葉巻でもつけて。」ロダンは一方の戸口を指ざした。
「十五分か二十分で済むそうです」と、花子に言って置いて、久保田は葉巻に火をつけて、教えられた戸の奥に隠れた。
* * *
久保田の這入った、小さい一間は、相対している両側に戸口があって、窓はただ一つある。その窓の前に粧飾のない卓が一つ置いてある。窓に向き合った壁と、その両翼になっているところとに本箱がある。
久保田はしばらく立って、本の背革《せがわ》の文字を読んでいた。わざと揃《そろ》えたよりは、偶然集まったと思われる collection《コレクション》 である。ロダンは生れつき本好《ほんずき》で、少年の時困窮して、Bruxelles《ブリュクセル》 の町をさまよっていた時から、始終本を手にしていたということである。古い汚れた本の中には、定めていろいろな記念のある本もあって、わざわざここへも持って来ているのだろう。
葉巻の灰が崩れそうになったので、久保田は卓に歩み寄って、灰皿に灰を落した。
卓の上に置いてある本があるので、なんだろうと思って手に取って見た。
向うの窓の方に寄せて置いてある、
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