のような御様子でいらっしゃるわ。
画家。いつか中とはいつだい。
モデル。あの盛《さかん》にかいていらっしゃった十一月頃と同じような御様子に見えますの。
画家。あのかけた頃のように見えるというのか。ふん。一体どんな顔だい。
モデル。そうですねえ。何んといったら好いでしょう。こう敬虔《けいけん》なような。
画家。なんだと。
モデル。いいえ。そうではないわ。そういっては当りませんの。
画家。そんならどうだというのだ。
モデル。そうね。作業熱のあるお顔ですわ。
画家。(紙巻を灰皿に押付けて消す。)ふん。作業熱のある顔というのは、どんな顔だい。
モデル。(徐《しずか》に)信仰のあるような顔ですわ。
画家。(真面目なる顔にてモデルをじっと見る。モデル立ち上る。)今日の己の顔はそんな風かなあ。
モデル。ええ。(間。)
画家。(間。○微笑む。)そうして見ると近い内にまたお前に来て貰わなくっちゃあならないようになるだろうかな。
モデル。(喜ばし気に。)いつでも参りますわ。
画家。(たゆたいつつ。)ふむ。事によったら。(神経質なる態度にて、あちこち歩き始む。)事によったらやられるかも知れない。考《かんがえ
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