いだというじゃあないか。(板を壁にがたりと寄せ掛く。さてチョッキのみになりたるに心付き、床《ゆか》の上にある上着を取上げ着る。娘、傍《そば》に寄る。)なんだ。
モデル。(間の悪気に。)お服が五味だらけになりましたわ。
画家。そんなら、掃いてくれい。(娘、ブラシを探す。画家|卓《たく》を指ざす。)あそこにある。(娘、ブラシを持ち来て服を掃く。間。○戸を叩く音す。画家|高声《たかごえ》に。)お這入んなさい。
画家の姉。(戸を少し開けて透間より。)好いの。
画家。姉《ねえ》さんですか。
姉。ええ。わたしよ。
画家。お這入んなさい、お這入んなさい。(モデル娘は服を掃く手を止《とど》め、気を置くように戸の方《かた》を見る。○ゾフィイは老けたる処女なり。質素なる拵えにて登場。髪は真中《まんなか》より右左に分けいる。容貌《ようぼう》美ならず。されど柔和にて目付|賢気《かしこげ》に情《なさけ》あり。万事察しの好き風なり。後《うしろ》の戸を締め、モデルを見てたゆたう。)好いからずっとこっちへおいでなさいよ。これがマッシャなのです。そら。好く姉さんに話したでしょう。今服の五味を取って貰っていた処です。今日
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