はマルリンクの処へ午餐《ごさん》に呼ばれましたので。
姉。(進み入る。)ちょいちょい覗《のぞ》いて見ようと思うのだけれど、つい御無沙汰《ごぶさた》になってね。(モデル娘に。)今日《こんち》は。(握手せんとす。娘は意外に思うらしく慌ててそっと手を出《いだ》し、一秒間程相手の手を握る。貴夫人の己《おの》れと握手する事はあり得《う》べからざるように思いおるゆえ驚きしなり。さて、艶拭巾を取りて、絵具箪笥の抽斗の、まだ開けある中にしまい、忙がわしく上着を着る。)どこへ呼ばれているのですって。
画家。(手真似にて姉に、寝椅子を指さし示し、自分も藁の椅子を傍《そば》に持ち行《ゆ》き、腰を掛く。)マルリンクの処なのです。
姉。(寝椅子に腰を掛く。)あそこの内では今日よめさんが来るのだというではありませんか。
画家。(半ば見物《けんぶつ》に背を向けて藁椅子に腰を掛く。)それなのです。儀式には厭だから行かないが、午餐だけは断るわけにも行かないものですからね。息子は近頃随分親しくしているのですから、断ると感情を害しますからね。それに午餐といっても極近い親類や友達《ともだち》の外は呼んでないのだそうです。それ
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