の「烏」は「え」であるか「ゑ」であるかと云ふ疑を御引きになりました。斯う云ふことこそ國語調査會と云ふやうな所で定案を作つて、兎に角一つの案を作つてそれを公認せられることが必要であるかと思ふのであります。
 併し困難は獨り字音ばかりではない、國語の假名遣にもあります。此の場合では殊に少數のむつかしい[#「むつかしい」に傍点]假名から教へるといふ手段を研究して、其の方法をもう少し完全に作れば、假名遣を廣く教へることが出來ようかと思ひます。諮詢《しじゆん》案では「動詞の活用から出て居る假名」と云ふものだけを保存することになつて居りまするが、其の御趣意は至極結構な御趣意と思ひます。併し實際の案に表はれて居るところはどうも用意周到でないやうに思ふのであります。例之ば和行の假名を以て言つて見ますると「居る」と云ふ語は假名遣を存して置く。是れが名詞になつて、例之ば坐に居る「位」、「圓居」、「芝居」と云ふ假名になると阿行の「い」になるやうに思はれる。又「据う」と云詞《いふことば》でも「すう」と云ふ假名遣が存してある。「つきすゑ」の「つくゑ」又「いしずゑ」の「ゑ」になると、是れは阿行になつてしまふ。斯う
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