又|妻《さい》後藤氏に随つて来た侍女に姿色があつたので、遂に留めて妾《せふ》としたと言ふ。想ふに湯島の店は※[#「木+夜」、第3水準1−85−76]斎の董督《とうとく》に待つあること鮮少《せんせう》でなかつただらう。
その二百十四
わたくしは狩谷懐之が、縦令《たとひ》多少書を読んでゐたとしても、必ずしも大商店を経営する力をば有せなかつたものと推する。父※[#「木+夜」、第3水準1−85−76]斎は浅草に隠居した後も、屡《しば/\》湯島に往来して、懐之を庇※[#「广+陰」、8巻−40−上−11]《ひいん》することを怠らなかつたであらう。此年乙未の秋には、其※[#「木+夜」、第3水準1−85−76]斎が歿したのである。
わたくしは嘗て懐之が怙《こ》を喪つた後久しからずして下谷|徒町《かちまち》に隠居し、湯島の店を養子三右衛門に譲り、三右衛門が離別せられた後、重て店主人《てんしゆじん》となつたことがあると聞いてゐる。此説は懐之に自知の明があつて、早きを趁《お》うて責任ある地位を遯《のが》れたものとも解せられる。わたくしは只その年月の遅速を詳《つまびらか》にしない。
懐之の
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