圭《りじよけい》の儀礼釈宮《ぎれいしやくきう》一巻は経苑《けいゑん》、武英殿聚珍版書等に収められてゐる。柏軒の日記は此に終る。
その二百一
わたくしは榛軒が初の妻横田氏|勇《ゆう》を去つて、後の妻を納《い》れたのが、前年暮春より此年天保三年に至る間に於てせられたかと推する。榛軒は前年二月の末に福山より江戸に帰つた。その福山にあつた時、留守に勇がゐたことは、荏薇《じんび》問答に由つて証せられる。しかし柏軒に与ふる幾通かの書に、動《やゝ》もすれば勇を信ぜずして、弟にこれが監視を託するが如き口吻があつた。榛軒が入府後|幾《いくばく》ならずして妻を去つたものと推する所以である。
榛軒は既に前妻を去つた後、必ずや久しきを経ずして後妻を娶《めと》つたであらう。何故と云ふに、後妻は特に捜索して得たものでは無く、夙《はや》く父蘭軒が在世の日より、病家として相識つてゐた家の女《むすめ》であつたからである。榛軒|再娶《さいしゆ》の時は此年より遅れぬものと推する所以である。
榛軒の後妻とは誰ぞ。飯田氏、名は志保である。寛政十二年に生れて、此年既に三十三歳になつてゐた。志保は夫榛軒より長ず
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