の職業をおしこみなさるが好い。」
 某は慙謝《ざんしや》して退いたさうである。蘭軒の病弱は其形骸にあつて、其精神にはなかつた。蘭軒は身を終ふるまで学問のために努力して、毫も退転しなかつたのである。
 わたくしは此に蘭軒の事蹟を叙し畢《をは》つて、其歿後の記録に入らうとする。わたくしは境に臨んで※[#「くさかんむり/姦」、7巻−377−上−9]斎《かんさい》詩集の一書を回顧する。詩集はわたくしが富士川氏に借り得て、今に※[#「二点しんにょう+台」、第3水準1−92−53]《いた》るまで座右に置き、其編年の体例に拠つて、我文の骨格を構へ成した所のものである。
 わたくしは今詩集を富士川氏に返さうとする。そして今一たび其|巻《まき》を繙閲する。巻は百|零《れい》三|頁《けつ》の半紙本で、頁数《けつすう》は森|枳園《きゑん》の朱書する所である。首に「※[#「くさかんむり/姦」、7巻−377−上−15]斎詩集、伊沢信恬」と題してある。印が二つある。上《かみ》のものは「森氏」で枳園の印、下のものは「伊沢氏酌源堂図書記」で蘭軒の印、並に朱文篆字《しゆぶんてんじ》である。載《の》する所の詩は、五古一、
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