坐候。わたくしは其日すこし休息いたし帰宅仕候。十八日夜也。」
「尚々|御次《おんついで》御内上《おんうちうへ》様、辞安様|御内政《ごないせい》様へ宜奉願上候。」
「尚々千蔵こと辞安様大に御せわ被下、可也にとりつづきゐ申候よし、忝奉存候。さだめて時々参上、御せわになり可申候。宜奉願上候。」
此書牘は茶山が蘭軒の旅況を蘭軒の父信階に報じたもので、此主なる三人を除く外、尚六個の人物が文中に見えてゐる。話題に上つてゐるものは通計九人である。わたくしは下《しも》に少しくこれを註して置かうとおもふ。
その百八十九
わたくしは蘭軒の大声高笑の事を言つて、菅茶山の書牘を引いた。蘭軒は文化丙寅に長崎に往く途次、神辺《かんなべ》を過《よぎ》つた。茶山がこれを江戸にある蘭軒の父|信階《のぶしな》に報じた書は即是である。書を裁した茶山は五十九歳、書を得た信階は六十三歳、文中に見えてゐる蘭軒は平頭《へいとう》三十であつた。わたくしは是に由つて「伊沢長安様」と呼ばれた信階が、倅蘭軒ほど茶山に親しくはないまでも、折々は書信の往復をもしたと云ふことを知る。茶山の仮名文字を用ゐること常よりも稍《やゝ》
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