その百八十四
此年文政十一年二月には、詩会が上野仙駕亭に催された。其日は十三日であつた。蘭軒は宿題「城門春望」、席上題「新闢小園」の七律各一首、「席上次森立夫韻」の七絶一首を獲た。わたくしは此に其絶句のみを録する。「世路風塵不耐多。池亭相値聴高歌。無端破得胸中悪。漫把※[#「角+光」、第3水準1−91−91]船巻酒波。」枳園立之《きゑんりつし》は此年二十二歳、稍《やゝ》頭角を露《あらは》した時であつただらう。
蘭軒の門人等が「蘭軒医話」を著録したのは此|比《ころ》の事であつたらしい。此書は其筆授者に従つて異同がある。山田|椿町《ちんてい》の校本には「附録一巻」があつて、此二月十四日の識語がある。椿町は当時二十一歳、枳園より少《わか》きこと一歳であつた。椿町又椿庭に作る。名は業広《げふくわう》、通称は昌栄《しやうえい》である。
詩集に二月の詩と三月の詩との間に「送金子正蔵帰省加賀」の七律がある。加賀の金子正蔵の事は他に所見が無い。「征馬驕春立柳辺。暫時此別不悵然。信山雲擁羊腸路。越海濤涵鵬翼天。帰装頼将裁錦巧。高堂兼作舞衣鮮。重来有約君休背。新著期成書廿篇。」末句の下に「生註
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