たくしは菅波高橋両家の系図を披《ひら》いて見た。茶山の弟|汝※[#「木+便」、第4水準2−15−14]《じよへん》、晋宝《しんはう》、妹ちよ、まつには皆子があり、其子に女があり、中に夭折した女がある。わたくしは其中に就いて捜すこととした。何故と云ふに更に下ること一代となると、年月が合はなくなるからである。例之《たとへ》ば弟汝※[#「木+便」、第4水準2−15−14]の子|万年《まんねん》の女類は夭折の年月或は契合すべく、更に下つて万年の子|菅《くわん》三の女|通《つう》となると、明に未生《みしやう》の人物となる。
わたくしの捜索の範囲は茶山の書牘の一句に由つて頗る狭められた。それは「お敬はじめ哀傷御憐察可被下候」の語である。敬は亡くなつた女の母らしい。
男系より見れば敬は茶山の弟汝※[#「木+便」、第4水準2−15−14]の子万年に嫁した婦《よめ》である。女系より見れば敬は茶山の妹ちよの井上正信に嫁して生んだ女である。
しかし万年と敬との間には女子が無い。系図は敬の女《むすめ》を載せない。
是に於てわたくしは、彼牀頭の小珠が北条霞亭の敬に生ませた女だらうと云ふことに想ひ到つた。
前へ
次へ
全1133ページ中509ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング