日程七八里故。)朔日《ついたち》(四月)見戸野々尻辺花猶盛に而珍しく、歌あり。花の香ををしむのみかは谷風にころもかへうき木曾の山道。御笑可被下候。今朝抜た綿ではないか谷ざくら。松宇君へ御つたへ可被下候。」
「福井へ尋申候。甚よく遇せられ、昨年断被申候事途中之間違のよし等被申候。何より以家屋園池之結構、小障子一枚といへども、一草一礫といへ共、みな/\心を用ひ、額聯之数は黄檗山より多く、すきま/\はアンヘラにてはりつめ、中々千金二千金之用途にて作り候物に無之、露台、庭の檻《てすり》、朱緑間錯、釣燈籠凡三百にあまり申候。実に田舎漢《でんしやかん》の京の門跡を始而見候より驚申候。但し工《たくみ》ときたな細工とを以組詰たるものにて、僕など三日も右之家に居候ものならば、大病に相成候事相違有之まじく被存候。此後数度参候而珍蔵乞可申所存に候へども、但右之一儀に迷惑いたし居申候。」
「稲荷祭。」
「御蔭祭。」
「古雅結構、面《おもしろ》き事に御座候。(森云。面の下原文白字を脱す。)土佐画の画工等、或は社頭の式を観《み》をみる人あり。(森云。をみ二字衍文。)或は路中行装を観《みる》もの有、洛東にて騎馬音楽
前へ 次へ
全1133ページ中376ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング