日+麗」、第4水準2−14−21]《さらし》御紋付一つ、為別段《べつだんとして》唐桟御袴地一つ、唐更紗御布団地一つ、計四品、於御納戸頂戴。」常徳院は正寧の法諡《はふし》である。
「十二日。晴。」来客中に「矢島元碩」がある。「元碩」は玄碩に作るべきで、渋江抽斎の子|優善《やすよし》が養父の称を襲いだのである。日録に優善の事を記する始である。優善は当時三十六歳であつた。
「十三日。晴。」是日阿部家に画幅の払下があつて、棠軒は数幅を買つた。明治初年の書画の価《あたひ》を知らむがために其一二を抄する。「探幽雲山一軸代金一両二分、常信花鳥一軸代金三分。」
「廿五日。晴。家書及飯田書状来る。本月三日男子出生之由。」公私略に「名、三郎」と云つてある。
「廿七日。晴。此日初而乗人力車。」東京に人力車の行はれた始であらう。

     その三百五十二

 庚午八月二十七日後の棠軒日録を続抄する。
「廿二日。(九月。)微雨。福山内田養三より申来《まうしきたる》左如《さのごとし》。自分事御家内医官、東安同補、先達而《せんだつて》被仰付候由。尤医官次席之事。権少村上氏より申来如左。自分事在番被仰付置候処、御免被仰付候旨。」棠軒は家内医官を拝し、三好東安は家内医官補を拝したのである。家内医官とは阿部家の家庭医師を謂ふか。内田養三は福山にある同僚である。棠軒は同時に在番を解かれた。三好は是より先、是月六日に在番を解かれ、次日二十三日に東京を発して福山に向ふこととなつてゐた。「権少村上」は権少参事村上半蔵の略である。此二事は棠軒公私略も亦これを載せてゐる。
「廿九日。晴。道中御手当金二十八両一分一朱と銭五百三十三匁受取。明後|朔日《ついたち》出帆決定。」
「十月朔日。晴。朝六時石原御門前より川崎屋船に乗組、南新堀|万屋《よろづや》正兵衛方へ一先《ひとまづ》落著、黄昏和歌山蒸汽明光丸へ乗組。船賃九両茶代金二百疋。」
「二日。晴。今朝五時前出帆。」
「四日。晴。暁七時|浪華《なには》天保山沖へ著。天明より小舟一艘|雇《やとひ》、土佐堀御蔵屋敷へ著。」
「五日。微晴。時雨《ときにあめ》。藩邸より伏見夜船賃受取。夕刻煙草屋藤助一六船利徳丸へ乗組、新堀迄出帆。」
「六日。晴。夜微雨。今朝新堀出帆。」
「八日。晴。夕七時福山木綿橋へ著船上陸。安石、洞谷、待蔵、徳児等迎来。」此旅行は公私略に只発著を記するのみである。
「十三日。雨。九月八日岡山奥小野崎姉君御病死之旨今日|御達《おんとゞけ》差出《さしいだし》、一日之遠慮引いたし候。」公私略に同文がある。只小野崎を「斧崎」に作つてある。棠軒の姉は田中氏か。
「十五日。(閏《じゆん》十月。)晴。日暮雨。殿様昨夜|鞆津《ともつ》へ御著船被遊、今九時御帰藩被遊候に付、平服に而御祝儀出勤。」阿部|正桓《まさたけ》の帰藩である。
「十七日。晴。内願《ないぐわん》差出左之通。覚《おぼえ》。私拝領仕候御紋附類悴|徳《めぐむ》へ著用為仕度奉内願候、以上。私拝領仕候木綿御紋附御羽織異父兄飯田安石へ相譲申度奉内願候。以上。両通共勝手次第之旨、御頭《おんかしら》乾三殿|被申談候《まうしだんぜられそろ》。」乾三は己巳席順に「吉沢乾三」と記してある。
「十日。(十一月。)晴。午後雨。微雪。三児種痘。」三児は三郎、当歳。種痘は遂に伊沢氏に入つた。
「七日。(十二月。)晴。津山へ行飲《ゆきのむ》。行三《かうざう》挙家《きよか》一昨日引越著に付。」津山碧山は当時行三と称した。父忠琢も共に福山に来たのである。五十川※[#「言+仞のつくり」、第3水準1−91−93]堂《いかがはじんだう》の文に「扈君夫人、移居福山、時君(忠琢)既致仕、而有此命、蓋特典也」と云ふは、此時の事であらう。是に由つて観れば、津山氏の移徙《いし》は忠琢が召された故である。君《くん》夫人は正弘の第六女にして正桓の初の室|寿子《ひさこ》か。寿子は当時二十一歳であつた。

     その三百五十三

 庚午十二月七日後の棠軒日録を続抄する。
「十八日。陰。藩庁御制度御変革諸官員御減省に付而者《ついては》、御家政向も右に准じ御減省、且御家禄之内御減数之儀も有之、依而免職被仰付。三好東安、自分、津山忠琢、右に付金三百疋づつ頂戴被仰付。」棠軒が三好、津山と共に所謂家内医官を罷められたのである。
「廿八日。晴。御奥御改革|御人減《おんひとべらし》に付、長女御暇被下下宿。」棠軒の女長が阿部家の奥より下げられたのである。棠軒公私略は棠軒自己の事を載せて、其女の事を載せない。
 此年棠軒三十七、妻柏三十六、子平安十二、女長十七、良十五(以上福山)、磐安二十二、弟平三郎十、孫祐八つ、姉国二十七、安十九、柏軒の妾春四十六(以上静岡)であつた。
 明治四年は蘭軒歿後第四十二年である。棠軒一家は又年を福山に迎へた
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