うじ》村を経て一里半大久保駅、三里半加古川駅にいたる。一商家に小休す。駅吏中谷三助(名清《なはせい》字惟寅《あざなはゐいん》、号詠帰《えいきとがうす》、頼春水の門人なり)来訪、頼|杏坪《きやうへい》の書を達す。此駅|※[#「魚+夷」、第3水準1−94−41]魚《いぎよ》味《あじはひ》美《び》なり。方言牛の舌といひ又略して舌といふ。加古川を渡り阿弥陀宿《あみだじゆく》村をすぎ六騎武者塚(里俗喧嘩塚)といふを経て三里|御著《ごちやく》駅に至り一里姫路城下本町表屋九兵衛の家に宿す。庭中より城楼直起するがごとし。人《ひと》喧《かまびすしく》器用甚備。町数八十ありといふ。此日暑甚し。夜微風あり。行程九里|許《きよ》。」所謂《いはゆる》※[#「魚+夷」、第3水準1−94−41]魚はリノプラグシアであらうか。
 第二十四日。「十三日早朝発す。斑鳩《いかるが》に到て休。斑鳩《はんきう》寺あり不尋。三里半正条。半里片島駅。藤城屋六兵衛の家に休。日正午也。鶴亀村をすぎ宇根川を渡り二里宇根駅、紙屋林蔵の家に宿す。此日暑甚からず。行程六里許。」
 第二十五日。「十四日卯時に発す。大山峠を経て三里|三石《みついし》駅。中屋弥二郎兵衛の家に休す。是より備前なり。二里片上駅。京屋庄右衛門の家に宿し、夜兼松弥次助と海浜|蛭子祠《ひるこのし》に納涼す。此地山廻て海入る。而《しかして》山みな草卉にして木なし。形円にして複重す。山際をすぎて洋に出れば三里ありといふ。真の入り海なり。都《すべ》てこれ仮山水のごとし。延袤《えんぼう》二里許あり。土人小舟にて竜鬚菜《りゆうしゆさい》をとるもの多し。又海船の来り泊するあり。忽舟に乗じて来るものあり。歌謡東都様なり。之をみれば山村九右衛門樋口小兵衛なり。因て四人同舟して山腹の日国寺に詣る。寺北斗を祭て※[#「樗のつくり」、第3水準1−93−68]《う》す。燈火昼のごとし。村人群来す。雑喧|不堪《たへず》また舟にのぼり逍遙漕してかへる。時正に二更後なり。此日苦熱不可忍。この納涼に因て除掃す。行程五里許。」
 詩。「宿片上駅買舟納涼。藻※[#「くさかんむり/俎」、7巻−77−下−2]魚羮侑杜※[#「酉+倍のつくり」、第4水準2−90−38]。買舟暫遶水村回。岡頭燈火人如市。道是星祠祈雨来。」
 第二十六日。「十五日卯時発す。長舟《をさふね》村を経吉井川を渡り四里藤井駅
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