た。主従四人である。城から打ち出す鉄砲が烈《はげ》しいので、島が数馬の着ていた猩々緋《しょうじょうひ》の陣羽織の裾《すそ》をつかんであとへ引いた。数馬は振り切って城の石垣に攀《よ》じ登る。島も是非なくついて登る。とうとう城内にはいって働いて、数馬は手を負った。同じ場所から攻め入った柳川の立花|飛騨守宗茂《ひだのかみむねしげ》は七十二歳の古武者《ふるつわもの》で、このときの働きぶりを見ていたが、渡辺新弥、仲光内膳《なかみつないぜん》と数馬との三人が天晴《あっぱ》れであったと言って、三人へ連名の感状をやった。落城ののち、忠利は数馬に関兼光《せきかねみつ》の脇差をやって、禄を千百五十石に加増した。脇差は一尺八寸、直焼《すぐやき》無銘、横鑢《よこやすり》、銀の九曜《くよう》の三並《みつなら》びの目貫《めぬき》、赤銅縁《しゃくどうぶち》、金拵《きんごしら》えである。目貫の穴は二つあって、一つは鉛で填《う》めてあった。忠利はこの脇差を秘蔵していたので、数馬にやってからも、登城のときなどには、「数馬あの脇差を貸せ」と言って、借りて差したこともたびたびある。
 光尚に阿部の討手を言いつけられて、数馬が
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