ヘお前の事を委《くは》しく考へて見た。そしてお前の為めに祈祷をした。そこでわたしの得た神のお告はかうだ。これまでのやうに暮してゐて、身を屈するが好いと云ふのである。それと同時に己は外の報告を得た。それは山に隠れてゐた僧のイルラリオンが聖なる生涯を閲《けみ》し尽して草庵の中《うち》で亡くなつたと云ふのである。イルラリオンは草庵に十八年住んでゐた。あの山の首座が己に訃音を知らせると同時に、あの跡を引き受けて草庵に住んでくれるやうな僧はあるまいかと問ひ合せてよこした。丁度そのところへお前の手紙が来たのだ。そこで己はタムビノ僧院のバイシウス首座に手紙の返事を遣つた。お前の名を紹介して置いた。お前は今からバイシウス長老の所へ往つて、イルラリオンの跡の草庵に住まふやうに願ふが好い。これはイルラリオンのやうな清浄な人の代になるお前だと云ふのではない。あんな寂《さみ》しい所にゐたら、お前がその驕慢を棄てることが出来ようかと思ふのである。わたしはどうぞ神がお前を祝福して下さるやうにと祈つてゐる。
 セルギウスは前の僧院の長老の詞に従つた。そして今の僧院の長老に右の手紙を見せて、転宿の許可を得た。それから
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