りを見せる。その間に、自分では知らずに、変幻極まりなく、且最も深遠な事物を表現する。そして踊つてしまつて、真つ直ぐに、誇りの姿をして立つて、両臂をはればれしく頭の上に挙げて、指を組み合はせてゐて、優しい乳房の上に、羅ものが静かに緊張してゐると、名状すべからざる、崇高な美が輝いて、それを見る人は神聖なる震慄《しんりつ》に襲はれるのである。
或る日クサンチスがいつもより一層人を酔はせるやうな踊り方をした跡で、そこへ近所の貴人《きにん》が見舞ひに来た。この人は昔マイセンで出来た陶器人形の公爵である。身なりが上品で、交際振りの丁寧な事は比類がない。顔色にどこか疲れたやうな跡はあるが、まだ美男子たる事を失はない。只戦争に行つたので、首と左の足とは焼接ぎで直してある。
クサンチスには公爵がひどく気に入つた。かすめた声に現はれてゐる疲れが、何事にも打ち勝つて行く青年の光沢よりも、却つて女の心を迷はせるのである。
公爵は長い間女と話をしてゐた。その口から語り出す事は、何もかも女の為めにひどく面白く聞えた。不思議な事には、クサンチスはその話を聞いてゐながら、自分の記憶してゐた故郷の事を思ひ出した。
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