である。
 ルイ第十五世時代に出来た飾箱の中に、何一つ欠点の挙げやうのない、美しい、小さいタナグラ人形があつた。明色《めいしよく》の髪の毛には、菫の輪飾が戴かせてある。耳朶《みゝたぶ》にはアウリカルクムの輪が嵌めてある。きらめく宝石の鎖が胸の上に垂れてゐる。体が頭の頂から足の尖まで羅《うす》ものに包まれてゐて、それが千変万化の襞を形づくつてゐる。その羅ものの底から、体のうら若い、敏捷な態度が、隠顕出没して、秘密げに解け流れる裸形《らけい》になつて見えるやうである。
 この人形の台に彫つてある希臘《グレシア》文字を見れば、この女の名はクサンチスといふものである。生れた土地はクリツサといつて、近くに豊饒《ほうねう》な平野が多く、その外を波の打ち寄せる海に取り巻かれてゐる都会であつた。
 クサンチスは実にこの飾箱の中の第一の宝である。
 折々クサンチスは台から下へ降りて来て、大勢が感嘆して環《めぐ》り視てゐる真中に立つて、昔アルテミスの祠《ほこら》の、円柱《まるばしら》の並んだ廊下で踊つた事のある踊を浚《さら》つて見る。金の輪を嵌めた、小さい足を巧みに踏んで、真似の出来ない姿をして、踊の段取
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