に似る現象に就いて』の書を読めと勧告することは出来申すまじく、又其人々の前に跪きて、我妻の貞操を保ち居ることを承認しくれられたしと一々頼む訳にも参り兼ね候。事実は彼リムビヨツクの著書に有ると殆んど同一にて、妻は去る八月妹を連れて動物園に参りしこと有之候。其頃動物園には黒人仲間滞留し居候。小生は其数日前実父の病気見舞の為に田舎に帰り候。不幸にして実父は数週の後死亡致し候。其留守に妻は一人にて暮し居り、小生が帰宅せし折は妻は床に就き居候。妻は小生を待つこと余りに久しくなりて健康を害せしものなること小生の確信する所に候。小生の不在は僅かに三日間なりしに、健康を害するまで待ちくれしにても、妻の小生を愛しくれ候ことは察せられ候。小生は直ちに妻の臥所の縁《へり》に腰を掛け、此三日間を如何に暮し居りしかと尋ね候。小生の此問を反復するを須《ま》たずして、妻は何事も包み隠すことなく精《くは》しく話しくれ候。事実の真相を明かにする為に、其話を洩さず次に記し置き候。月曜日には妻は午前宅に居り、午後フリツチイを連れて買物の為め町へ出で候。フリツチイは妻の妹にて真《まこと》の名はフリイデリイケに候。フリツチイは
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