留まった事はないかと思うと、ふいと今朝の事を思い出す。今朝散歩に出た。出るときお蝶は蚊屋《かや》を畳み掛けていた。三十分も歩いたと思って帰って見ると、お蝶は畳んだ蚊屋を前に置いて、目は空《くう》を見てぼんやりしてすわっていた。もう疾《とっ》くに片付けてしまっているだろうと思ったのに、意外であった。その時僕は少し懶《なま》けて来たなと思った。あの時お蝶は三十分が間も何を思っていたのだろう。こう思って、僕は何物をか発見したような心持がした。
 この時から僕はお蝶に注意するようになった。別な目でお蝶を見る。飯の給仕をしてくれる時に、彼の表情に注意する。注意して見ると、こういう事がある。初の頃は俯向いてはいたが、度々僕の顔を見ることがあった。それがこの頃は殆ど全く僕の顔を見ない。彼の態度は確に変って来たのである。
 僕は庭なぞを歩くとき、これまでは台所の前を通っても、中でことこと言わせているのを聞きながら、其方《そっち》を見ずに通ったのが、今度は見て通る。物なんぞを洗い掛けて手を休めて、空《くう》を見て、じっとしているのが目に附く。何か考えているようである。
 又飯の給仕に来る。僕の観察の目が
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