の役を勤めていた士族の娘で、父親に先立たれて、五軒町の借屋に母親と一しょに住んでいる。しかし妙なことには、その家にお兄いさんというのがいて、余程お人好と見えて、お麗さんに家来のように使われている。それが実は壻《むこ》養子に来たものだということである。壻養子に来たのではあるが、お麗さんはその人の妻になりたくないから、家をその人に遣って、自分はどこかへ娵《よめ》に行きたいと云っている。そしてお麗さんの望は、少くも学士位な人を夫に持ちたいというのだそうだ。そこで僕がその選に中《あた》ったという訣《わけ》である。
 お母様にはそのお兄いさんというもののいるのが気に入らない。僕はこの怜悧で活溌な娘が嫌ではないが、早く妻を持とうという気はないのだから、この話はどうなるともなしに、水が砂地に吸い込まれるように、立消《たちぎえ》になってしまった。
 これは性欲問題では勿論無い。そんならと云って、恋愛問題とも云われまい。言わば起り掛かって止んだ縁談に過ぎないが、思い出したから書いて置く。お麗さんは望どおりに或る学士の奥さんになって横浜あたりにいるということである。

      *

 十八になった。

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