宿舎では、その日の講義のうちにあった術語だけを、希臘拉甸《ギリシャラテン》の語原を調べて、赤インキでペエジの縁に注して置く。教場の外での為事は殆どそれ切である。人が術語が覚えにくくて困るというと、僕は可笑しくてたまらない。何故語原を調べずに、器械的に覚えようとするのだと云いたくなる。僕はノオトブックと参考書とを同じ順序にシェルフに立てた。黒と赤とのインキを瓶のひっくり反《かえ》らない用心に、菓子箱のあいたのに、並べて入れたのに、ペンを添えて、机の向うの方に置いた。大きい吸取紙を広げて、机の前の方に置いた。その左に厚い表紙の附いている手帖を二冊|累《かさ》ねて置いた。一冊は日記で、寝る前に日日の記事をきちんと締め切るのである。一冊は学科に関係のない事件の備忘録で、表題には生利《なまぎき》にも紺珠《かんじゅ》という二字がペンで篆書《てんしょ》に書いてある。それから机の下に忍ばせたのは、貞丈《ていじょう》雑記が十冊ばかりであった。その頃の貸本屋の持っていた最も高尚なものは、こんな風な随筆類で、僕のように馬琴京伝の小説を卒業すると、随筆読になるより外ないのである。こんな物の中から何かしら見出《
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